2019/09/30
「欲」は「怒り」の別バージョン
「欲」と「怒り」はコインの裏表
生きている以上「苦しみ」から逃れることはできません。「苦しみ」に対して反発や反抗するところから「怒り」が生まれます。
「苦しみ」に対して「無くなって欲しい、良くなって欲しい」というのが「欲」です。
「無くなって欲しい、良くなって欲しい」と言う思いが実現しないと、「怒り」が生じます。
「苦しみ」がある以上、そこから逃れたいという「欲」も必ず生まれます。ですからすべての人は「欲」から逃れることはできません。
「欲」の親分は?
「欲」の親分は、ずばり「生存欲」です。「生きていたい」「死にたくない」との望みが「生存欲」です。
普通の人が、この「欲」をなくそうとすると、自ら死ぬことしかありませんから、よほどのことがない限り、この欲だけはなくすことは無理です。
生きるためには、食べなくては生きていけませんから、食べ物は絶対必要です。ここから「食欲」が生まれます。
あとは暑さ寒さから体を守るための衣類、雨風を凌げる場所、いわゆる「衣・食・住」にたいする「欲」が発生します。
生きるためには「欲」が必要であり、「欲」のために「苦しみ」が生まれます。そして「苦しみ」を避けようとして「欲」が生まれます・・・?????。
仏教の三毒
「苦しみ」を嫌うと「怒り」が生まれ、「苦しみ」を避けようとすると「欲」が生まれます。「怒り」と「欲」が生まれると「苦しみ」が生じます。
だからお釈迦様は「生きることは苦である」とおっしゃっています。
この道理が分からないことを、愚痴(ぐち)と言います。
激しい怒りの瞋恚(しんい)、むさぼり求める欲の貪欲(とんよく又は、どんよく)、そして先の愚痴(ぐち)を合わせて、「貪・瞋・痴」(とん・じん・ち)の三毒と言い、108もある煩悩のうち最も恐ろしい3大悪としてあげられています。
初期仏教では「貪欲」を「余計な欲(Abhijjhâ アビッジャー)」と表しています。
「貪欲」は自分だけではなく、他の人の幸せも奪い取る
仏教では数ある「欲」の代表として次の5つの欲(五欲)を上げています。
1.食欲(しょくよく)
2.財欲(ざいよく)
3.色欲(しきよく)
4.名誉欲(めいよよく)
5.睡眠欲(すいみんよく)
食欲
一番目の「食欲」は文字通り、「食べたい」「飲みたい」と言う「欲」です。
「食欲」はお腹がいっぱいになれば、それ以上食べられないので、他の人の食べ物を余分に奪っていないと思われますが、次の図を見てください。
参考 食品廃棄物等の発生量(平成28年度推計) 農林水産省食料産業局
「まだ食べられるのに捨てられる食べ物の量 643万トン」
のうち、事業系廃棄物(飲食店や工場、販売店等などの規格外品・返品・売れ残り・食べ残し)は352万トン。
一般家庭での廃棄物(食べ残し、過剰除去、直接廃棄)が291万トンです。
これを国民1人当たりの量にすると、年間で約51㎏となり、1人当たりの米の消費量(約54㎏)に相当します。
2017年の国連推計世界人口約76億人のうち、約8億人(9人に1人)が栄養不足になり、1分間で17人の人が飢餓で亡くなっています。
ただでさえ日本の食糧自給率は38%と低いうえに、市町村におけるごみの処理経費が19.606億円(平成28年度)、一人当たりで計算すると15300円/年となり非常にもったいない状態です。
参考 農林水産省 ・ ハンガー・フリー・ワールド(HFW)
自分が食べる分を超えた余分な食物をうまく活用すれば、資源やお金の節約だけではなく、多くの人たちの助けになります。
財欲
これはお金だけでなく、いろいろな物に対する物欲とか所有欲なども含みます。
仏教では際限なく欲しがる欲望を「渇愛」と言います。「渇愛」とは海で遭難する羽目になった人が、喉の渇きに耐えられず、海水を飲んでしまった状態に例えられています。海水には塩分が含まれていますから、飲んだ時は、一時的に喉の渇きを抑えられますが、含まれている塩分によりかえって激しい渇きを覚えて、海水を飲み続けなくてはならない状態になって、際限なく海水を飲み続けることです。
色欲
3番目の「色欲」は性欲だけではなく、好きな人と一緒に居たいとか、好きな人に会いたいとの思いです。これが激しくなると、その人を独占したくなってしまいます。
さらに進み特定の人や物が手に入らなくなると、そこから憎しみが生まれ、その人や物を破壊したいと思うようになってしまいます。
名誉欲
政治家がより大きい権力を手に入れたいとか、会社でより高い役職に就きたいとかの他に、人から認めてもらいたい、褒められたい、良く思われたい等も含みます。
ブランド品の服やアクセサリーを身に着けたり、高級車を乗り回したいなどです。
睡眠欲
5番目の「睡眠欲」はちょっとわかりにくいと思いますが、何もせずに寝て暮らしたい、面倒なことはやりたくない、楽がしたい、出来るだけ怠けたい、自分の好きな事だけをしていたい、という欲求です。
「欲」を抑える特効薬はあるの?
「欲」を抑える特効薬としてお釈迦様は「小欲知足」又は単に「知足」との言葉を上げています。
「小欲」とは欲が小さい(少ない)ことではなく、もともとの意味はパーリ語で「アッピッチャター(appicchatā)」と言い、ニーズかない、必要がないことを指します。
前に「貪欲」とは余分な欲と書きましたが、生活するうえで必要な欲以上の欲を言います。
「知足」は文字通り「足(た)るを知る」と言うことで、これだけあれば十分だという量が分かるということです。「欲」を際限なく増やさずに、必要なだけで満足することを言います。
「欲」はいくら叶えられても、しばらくするとそれに満足できなくなり、さらに新たな「欲」を作り、それが叶えられても、それ以上の「欲」を作り出し、きりが無くなります。
そうなると常に不満を持つようになり、「怒り」を起こし、いつかは自分の人生を破壊していまいます。
程々に生きることに満足して過ごせば、落ち着いた心で生きて行くことが出来ます。