2019/09/30
情動に体を支配させないために
「情動」とは
「情動」という言葉はあまり聞きなれないと思いますが、英語の「emotion」を訳したもので、 (心身の動揺を伴うような)強い感情、感激、感動、(喜怒哀楽の)感情、(理性・意志に対して)感情、情緒のことです。
以前は「情緒」という言葉を使っていましたが(情緒不安定など)、「情緒」には風情(江戸情緒・情緒豊か、など)という別の意味があるため、強い感情を表す言葉として「情動」が主に使われるようになりました。
反対に穏やかな気持ちや気分を表すときは、「mood・ムード」が使われます。
情動は私ではない
マインドフルレスの体験を重ねて来ると、「情動」と自分が別のものであることに、気が付くようになります。
「私は怒っている」から「私は怒りを感じている」
「私は欲している」から「私は欲望を持っている」
「私は悲しんでいる」から「私は悲しみを持っている」
というように情動は自分ではなく、自分がいま経験している心の動きであることに、気づくようになってきます。
これは大変重要なことで、激しい怒りや、欲望、悲しみが自分自身ではなく、ただ体が感じている経験であることが分かれば、痛みや痒みと同じく治療することが出来るからです。
情動はどこで生まれるのか
人の脳は大きく分けて、脳幹、大脳辺縁系、大脳新皮質の3つに分かれています。
出典 日本自律神経研究会
脳幹は生命を維持する大切な脳の中にあって人間が生きていく上で最も基本となる免疫系、内分泌(ホルモン)系、自律神経系、脊髄筋骨格系の4つの重要な系統全てに関与する中枢部です。
大脳辺縁系は人間の脳で情動の表出、食欲、性欲、睡眠欲、意欲、などの本能、喜怒哀楽、情緒、神秘的な感覚、睡眠や夢などをつかさどっており、そして記憶や自律神経活動に関与しています。
各部位の主な働きは
帯状回 ( 感情形成・呼吸・感情による記憶に関連する部位 )
帯状回は大脳辺縁系の各部位を結びつける役割を果たしており、感情の形成と処理、学習と記憶に関わりを持つ部位。また、呼吸器系の調整、感情による記憶にも関わりを持つています。
扁桃体 ( 情動反応に関連する部位 )
扁桃体(へんとうたい)は、神経細胞の集まりで情動反応の処理と短期的記憶において主要な役割を持ち、情動・感情の処理(好悪、快不快を起こす)、直観力、恐怖、記憶形成、痛み、ストレス反応、特に不安や緊張、恐怖反応において重要な役割も担っています。
海馬・歯状回 ( 記憶、情動、本能、統合失調症に関連する部位 )
目、耳、鼻からの短期的記憶や情報の制御を行うところです。恐怖・攻撃・性行動・快楽反応にも関与しています。
大脳新皮質
人間の知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、高次機能を司る人間が生きていくうえで必要な事柄の司令塔です。
大脳には、主に思考や判断し行動する機能を司る「前頭葉」、主に知覚や感覚を司る「頭頂葉」、視覚を司る「後頭葉」、聴覚や記憶を司る「側頭葉」の4つの領域があり、それぞれの働きを担っています。
このうちの「前頭葉」の大部分を占めるのが「前頭前野」です。
「前頭前野」は、「考える」「記憶する」「アイデアを出す」「感情をコントロールする」「判断する」「応用する」など、人間にとって重要な理性的な働きを担っているため、人間が人間らしくあるためにもっとも必要な存在といえます。
「私が怒っている」の場合、「私」は前頭前野が受け持ち、「怒っている」の感情部分は、大脳辺縁系が受け持っていると考えられます。
「激怒」や「貪欲」等の激しい感情の場合、大脳辺縁系の動きに対して、前頭前野がコントロールを失い、自制が効かなくなってしまった状態です。
したがって情動を抑えるためには、理性を取り戻し、前頭前野に大脳辺縁系の働きを抑える働きを戻す、必要があります。
シベリア北鉄道
怒りっぽい人や落ち込みやすい人、いわゆる「情緒不安定」になりやすい人に適した練習方法に、グーグルの社内研修で行われている「シベリア北鉄道」という名のエクササイズがあります。
これは次の5つのステップからできています。
- S ストップ stop いったんすべての行動・思考を停止する
- B ブレス breath ゆっくり深呼吸する
- N ノーティス notice 自分の心に注意を向ける
- R リフレクト reflect 熟考する
- R respond それから反応する。または行動する
それぞれの頭文字をとって「シベリア北鉄道」と名付けられました。
Siberia North Rail Road
シベリア 北 鉄道
チャディー・メン・タン著の「サーチ・インサイド・ユアセルフ(英知出版)」の183頁~186頁に、一人でできる「シベリア北鉄道」の練習方法が載っていたので、簡単に書いてみます。
注意を集中させる
まず2~3回深呼吸をして、心を落ち着かせます。
過去の体験を思い出す
今まで出会った不幸な出来事、苛立ったり、傷ついたり、腹が立ったりした経験を思い出します。
そしてその時経験したことを、再現してみてください。
「シベリア北鉄道」の練習
ここからが本番です。
1.ストップ
過去のネガティブな感情が蘇ったら、ここで一旦ストップをかけます。ネガティブな感情を抑えないと、かえって感情を高ぶらせることになり、後々まで尾を引くことになります。
2.ブレス
ゆっくりと深呼吸をして、高まった心を落ち着かせます。
3.ノーティス
情動を追体験した時、注意を自分の体に向けて何が起こったか、気づいてください。
情動状態のとき、神経が高まったり、反対に意気消沈したり、攻撃的になるか落ち込んでしまうか、活動的になるか、逃げだしたくなるかなど、体と心の状態を「良い」「悪い」の判断をせずに、ただ経験してください。
4.リフレクト
なぜ情動が起こったか、そのきっかけや、原因となる過去出来事についてよく考えてみます。
もし、情動の原因に他の人がかかわっていたら、その人の立場に立って自分を眺め直してみます。
また、情動を起こした後、どのようなことが起こるか、考えてみましょう。
5.レスポンス
情動を起こした後は、大抵酷いことになっていますから、これを治すにはどう考えればよいか、どのように実行すればよいかを考えます。
以上で、情動に体を支配されそうになった時の模擬実験は終わります。
あとは深く深呼吸を繰り返して、もとの状態に戻ってください。
一番大切なことは、情動が起こる前の体の状態をよく把握しておき、情動が起こりそうな前に異常に気付くことです。
それには「マインドフルネス」の練習が一番です。