2019/09/30
強さとスタミナを鍛える
今までは、呼吸や歩行、ボディースキャンなど集中力を鍛えるため、頭に浮かぶ雑念や妄想を「手放し」して「流し」て来ましたが、ここからは雑念や妄想に注意を向けます。
2つの瞑想
体を鍛えるには、2つの要素があります。瞬発的な強さと長時間続けられるスタミナです。万能選手になるには、この二つが備わるのが必要です。
それと同じように、瞑想にも互いに補い合う2つの瞑想があります。集中した瞑想と、開放的な瞑想です。
集中した瞑想とは、以前練習した呼吸瞑想のようにただ1点、体を出入りする息だけに集中して、そのほかの雑念や妄想をすべて退けてしまう方法です。これをマインドフルネスではFA(フォーカスト・アテンション)と言います。
解放的な瞑想とは、1つのことに集中するトレーニングを続けながら心や五感を訪れるものは、何にでも喜んで応じる瞑想です。これをOM(オープン・モニタリング)と言います。
この開放的な瞑想は、今まで一つのことに集中していたのが、視野が広がっていく感じです。周囲で起こっていることがすべて認識できますが、それに捕らわれず、川の水が流れ去っていくように、ただ通り過ぎていくのを眺めている感じです。
集中する瞑想は車を運転する時、トップギアに入れ高速道路をただひたすら運転しているようなものであり、開放的な瞑想は低速ギアでゆっくりと走りながら、時には立ち止まって周りの景色を眺めるようなものです。
瞑想のサーキットトレーニング
まず、楽な姿勢を取り深呼吸をして心を落ちつかせます。姿勢は座っても、寝ても構いません。
心が落ち着いたところで、集中する瞑想に入ります。呼吸瞑想を行い、この時は浮かんできた雑念や妄想は、ラベリングして頭から追い払い、ただ呼吸だけに集中します。
一旦集中する瞑想を止め、再び深呼吸をして心を落ち着かせ、開放的な瞑想に入ります。今度は呼吸瞑想しながら、頭に浮かぶ考えや、周囲の音などに注意を向けてみます。このとき、一つの思いなどに囚われないようにして、ください。もし、ある思いに囚われた(マインドワンダリング)と感じたら、囚われている思いを追い払い、呼吸瞑想に戻り、やり直します。
これを2~3分おきに2,3回繰り返して終わります。お疲れさまでした。
高速道路をただひたすら走っているだけでは疲れて長続きしません。時にはゆっくりと走りながら周囲の景色を楽しむと、長時間運転を続けられるようになります。
オープン・モニタリングが出来るようになると、五感が研ぎ澄まされ、今まで住んでいた世界が鮮やかに感じられるようになります。
例えば、今まで眺めていた景色が美しく感じられたり、気づかなかった時計の音が聞こえてきたりなどです。
サーチインサイド・ユアセルフ(Googleでマインドフルネスを開発した人の本)の著者チャディー・メン・タン はこれを「現実における解像度と鮮明度が上がる」と表現しました。
究極の集中状態「フロー」
フローとは
フロー(英: Flow)とは、人間がそのときしていることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、精神的な状態をいう。ゾーン、ピークエクスペリエンス、無我の境地、忘我状態とも呼ばれる。心理学者のミハイ・チクセントミハイによって提唱され、その概念は、あらゆる分野に渡って広く論及されている。
引用 ウィキペディア
例によって何を言っているのか分かりにくいのですが、簡単に言えば
「時を忘れるくらい、完全に集中して対象に入り込んでいる精神的な状態」
です。早い話が、子供がご飯を食べるのも(もちろん勉強も)忘れて、テレビゲームに夢中になっているときの状態です。
昔、読売巨人軍がV9(セ・リーグ9年連続優勝)を達成した時の監督で、「打撃の神様」と言われた川上哲治氏が、現役時代の1950年8月8日、
「多摩川のグラウンドで打撃投手を個人的に雇って打撃練習をしていたところ、球が止まって見えるという感覚に襲われた」
と言っていました。この時、この感覚を確実なものにするため、一心不乱に打撃練習を続け、300球を過ぎたところで、打撃投手から「もう勘弁してください」と言われてやっと気が付き、止めたそうです。
ミハイ・チクセントミハイは、さまざまな職業において一流と呼ばれる人たちにヒアリングを行なった結果から、8つの明確に列挙することができるフロー体験の構成要素が存在すると言いました。ただ、この8つが全部揃わないと、フロー体験が出来ない訳ではありません。
1.明確な目的(予想と法則が認識できる。テニスやチェスなと゛のゲームのように目標とルールがはっきりしていること)
2.専念と集中、注意力の限定された分野への高度な集中。(活動に従事する人が、それに深く集中し、他のことを考えたり、気を散らしたりする余裕がないこと)
3.自己に対する意識の感覚の低下、活動と意識の融合。(対称に没頭するあまり、他人の目を気にかけ無くなること)
4.時間感覚のゆがみ – 時間への我々の主体的な経験の変更。(活動中の時間感覚が無くなること。一瞬の出来事がスローモーションに様に長く感じられたり、逆に長時間の出来事が数分で終わったりするような感覚)
5.直接的で即座な反応。(活動の過程における成功と失敗が明確で、自分の行動が必要に応じて把握できる出来ること)
6.能力の水準と難易度とのバランス。(活動が易しすぎて飽きたり、難しすぎなて諦めたりしない程度の難易度があること)
7.状況や活動を自分で制御している感覚。(完全な没頭状態で、自分の能力と釣り合っている為、活動の内容をうまくコントロールできる感覚があり、失敗を感じにくい状態にあること)
8.活動に本質的な価値がある。(普段の雑事と違い、活動そのものに意味があること。だから活動が苦にならず積極的に行うことが出来る。)
ミハイ・チクセントミハイ自身が「フロー」について説明している動画がこちらにあります(日本語の字幕が付いています)。
この動画で説明している、ミハイ・チクセントミハイのフローモデル
出典ウィキペディア
チクセントミハイは人間の精神状態(メンタルステートメント)を、縦軸に「Challenging Level(挑戦の難易度)」を、横軸に「Skill Level(自分の能力)」を取ったときに、上の図のように8つに分けて定義しました。
もし自分の能力が低い状態であれば、そこにいきなり難易度の高い仕事が与えられると「Anxiety(不安)」になるでしょう。中くらいの難易度でも「Worry(心配)」な状態となります。
逆に、自分の能力に対して難易度が低い状態だと、「Relaxation(リラックス)」または「Control(制御または支配)」とされ、自分の成長には貢献せず、どちらかというと物足りないレベルになってしまいます。
最も良いのは「Flow(フロー)」で、次いで自身の成長を促す「Arousal(覚醒)」だとされています。
「フロー」は挑戦の難易度と能力が高いレベルにある状態で、「覚醒」は能力を獲得すれば「フロー」の域に達することのできる状態だといえます。チクセントミハイは、ここは成長を実感でき、満足度の高い生活を送ることのできるゾーンだとしています。
一方、「Boredom(退屈)」や「Apathy(無気力)」は、満足度が低い状態で、仕事にしても学習にしてもよくないということです。少しでも能力を上げるために、その人にとっては少し難易度の高めの仕事を与えるなど、「覚醒」レベルに持って行けるよう調整をする必要があります。
この部分は、“Finding Flow” Mihaly Csikszentmihalyi(1997)「フロー体験入門―楽しみと創造の心理学」大森弘訳 世界思想社、 2010年 を参考にさせていただきました。
フローの発見
フローという概念が注目を浴びたのは、それが人々に生きる目的を与え、幸せになる方法だと、ミハイ・チクセントミハイが説いたからです。
2010年のチクセントミハイ
ハンガリー出身のアメリカの心理学者。「幸福」、「創造性」、「主観的な幸福状態」、「楽しみ」の研究(いわゆるポジティブ心理学)を行う。フローの概念を提唱したことで知られる。
出典ウィキペディア
彼は、自分の人生を振り返り、第二次世界大戦後に荒廃した祖国ハンガリーで、仕事や家などの拠り所を失ってしまい「生きる希望」をなくしてしまった大人達の姿を見ていたため、「生きる事とは何か」「幸せとは何か」を自問自答したからだと言っています。
その後、心理学を学ぶためにアメリカに移住し、シカゴ大学で研究を行っていたときも「人生を生きるに値するものにするものは何か」を問い続けました。
初めは経済的な豊かであると幸せになると考え、統計を取ったところ、貧困層を超えたある生活レベル以上では、どんなに収入が増えても幸福度が変わらないことに気が付きました。
そこで毎日の生活の中で、いつどんなときに幸せを感じるのかをインタビューすることにしたのです。対象は一流の芸術家や音楽家、科学者やスポーツ選手です。
実際には、彼らに対してESM法(Experience Sampling Method)による調査を行ないました。
1日に10回、ランダムなタイミングでアラームを鳴らし、その時に「何をしていて、それは楽しいかどうか、やりたいことかどうか」などを一定期間答えてもらうという、アンケートの手法です。
そして彼ら、彼女らが創造的な活動や高い技術力を必要とされる仕事などに没頭しているとき、疲れをしらず、時間の過ぎるのも忘れて活動を続け、永続的な満足感を得られていることを見出しました。
彼は、この共通した創造的な心理状態に「フロー」と名付けました。
引用 識学式リーダーシップ塾